1860万延元年
創業
FOUNDED
蔵元「鍬田」は、万延元年(1860)に創業したと記されていました。最初に寿老を調べたとき、見えていたいちばん古い年です。
出典:発見時に確認した記述
JURO Archive
最初に寿老を調べたとき、見えていたのは二つの年だけでした。
1860万延元年
FOUNDED
蔵元「鍬田」は、万延元年(1860)に創業したと記されていました。最初に寿老を調べたとき、見えていたいちばん古い年です。
出典:発見時に確認した記述
1860 — 1993
133年
このあいだに何があったのかは、まだ分かっていませんでした。
1993
NATIONAL SAKE APPRAISALGOLD AWARD
「寿老」は、地方の古い銘柄であっただけではありません。全国の出品酒が並ぶ鑑評会で金賞を受け、その品質が全国の水準で認められた酒でした。
出典:発見時に確認した記述

Gold award daiginjo label寿老 大吟醸のラベル
記録は、ここで途切れます。
一度途絶えた銘柄は、そのまま歴史の中へ消えていく。残ったのは、数枚のラベルと、書類の上の記録だけでした。
約25年の空白 / Approx. 25 years of silence

The brewery, as it once was在りし日の酒蔵

The label found onlineインターネットで見つけた寿老のラベル
インターネットで「寿老」という銘柄を調べるうちに、一枚のラベルの写真に辿り着きました。名前だけではなく、ラベルまで残っていた。かつて確かに存在した酒の姿が、そこにありました。
「ないのなら、もう造るしかない。」
Next — 探しはじめた理由
そもそも、なぜ「寿老」を探していたのか。次章で、七福神巡りから始まった経緯をたどります。
七福神の由来や、それぞれの神様を巡るうちに、七福神の名を持つ日本酒が各地にあることを知りました。
恵比寿。大黒天。毘沙門天。弁財天。福禄寿。布袋。
Sake Seven
Lucky Gods
— a pilgrimage

七福神巡りの記録。年ごとに集めた御朱印。
2018 — 2026
七福神巡りは2018年から続いています。寿老の復刻は、この習慣の延長にあります。
それぞれの名を持つ酒を訪ね、酒蔵を巡る「酒の七福神巡り」を始めました。
Index — 06 found / 01 lost
恵比寿
Ebisu
大黒天
Daikokuten
毘沙門天
Bishamonten
弁財天
Benzaiten
福禄寿
Fukurokuju
布袋尊
Hotei
寿老人
Jurojin
かつて存在し、すでに造られていない酒Existed — no longer brewed
Related — 七福神・宝船
宝船—中村酒造
開運七福神—藤本酒造
七福神—菊の司酒造
宝船—窪田酒造
寿老人のお酒だけが、存在しなかったわけではありません。
かつて確かに存在していた。けれど、その酒はすでに失われていました。
調べていく中で辿り着いたのが、かつて兵庫・姫路で造られていた日本酒「寿老」でした。
酒蔵は廃業し、「寿老」は造られなくなっていました。記録の中にだけ残る、幻の酒となっていたのです。
The seventh deity
寿老人
The sake existed
寿老
Lost, not absent
失われた酒
Toward revival
復刻へ
The seventh slot
寿老人寿老岩村醸造
復刻醸造の協力蔵
寿老人のお酒は、なかったのではない。なくなったお酒だった。

酒の七福神を探して集めた記録。
Field notes — 08 chapters
調べたこと、迷ったこと、訪ねた場所と会った人を、進んだ順に記録しています。
Journey 01
01
The discovery
インターネットで寿老について調べると、こんな記述に辿り着きました。
「寿老」
〘 名詞 〙
寿命の長いこと。
長生きをすること。
また、その人。
日本酒「寿老」についての記述
兵庫の日本酒。
平成5年度全国新酒鑑評会で金賞受賞。
蔵元の「鍬田」は万延元年(1860)創業。
現在は廃業。
蔵は姫路市飾西にあった。

鶴と寿老人が描かれた寿老のラベル。
寿老は、“無かった酒”ではありませんでした。かつて確かに存在し、そして蔵の廃業とともに姿を消した、幻の酒だったのです。
さらに調べていくと、古い寿老のラベルを掲載したページも見つかりました。名前だけではなく、ラベルまで残っている。
「もう一度、この酒を造ることはできないだろうか。」
そんな思いが、少しずつ芽生え始めていきました。
Journey 02
02
The investigation
鍬田酒造についてさらに調べていくと、かつて蔵があった場所に、現在はグループホームが建っていることが分かりました。
What was verifiable
「おそらく、親族の方が運営されているのではないか。」そう考えました。
けれど、廃業して長い年月が経っている酒蔵に、突然電話をしてよいのだろうか。過去の銘柄を復刻したいと伝えることが、ご迷惑にならないだろうか。
いつか連絡してみよう。
そう考えたまま、半年ほど時間が過ぎていきました。
Journey 03
03
The decision
2025年3月、出雲大社を訪れました。
いつかは行こうと思っていた場所。けれど、行けるタイミングでなければ行けない場所でもある。そんな不思議な引力を持つ地でした。
出雲には、須佐之男命が八岐大蛇を退治するために八塩折の酒を用いたという神話が伝えられています。酒と神々の物語が残る土地。そして、八百万の神々が集う国・出雲。
これから本格的に酒造りに関わっていく。
その決意を確かめるように、私は出雲を訪れたのだと思います。
Journey 04
04
The family
旧蔵の住所と電話番号は分かっていました。その番号は、いまも同じ場所で使われていました。
代表者の姓も「鍬田」。ご親族である可能性は高い。それでも、すぐには連絡できませんでした。銘柄の名前を使わせてもらうことよりも、かつての蔵とご家族への敬意が先にあるべきだと考えたからです。
半年ほど迷ったのち、電話をしました。復刻の意図を、順を追って説明しました。
ご親族からは、名称の使用について理解をいただきました。安心と同時に、責任の重さがはっきりと残りました。
名前を預かった、という感覚でした。
Journey 05
05
A brewery
「造りたい」だけでは、酒はできません。委託醸造を引き受けてくれる蔵を、探さなければなりませんでした。
受け入れの条件が合わず、断られることが続きました。酒類小売免許の手続きにも、蔵の協力と書類が必要でした。業界に縁もありませんでした。
それでも、連絡を続けました。
Search record
「復刻したい」から、「実際に造れる場所を探す」へ。
Journey 06
06
Iwamura
候補のひとつが、岐阜県恵那市岩村町の岩村醸造でした。

岩村の町並み。蔵は、城下町の風景の一部として残っている。
城下町の町並みに残る蔵の佇まいが印象に残りました。近くに「寿老の滝」と呼ばれる滝があることも、この蔵を覚えていた理由のひとつでした。

寿老の滝。地名として記録されているもので、銘柄名との関係を示す資料は確認できていません。
The turning point — 構想から現実へ
縁も紹介もない、突然の問い合わせでした。
それでも話を受け止めていただき、途絶えていた『寿老』を再び造るための委託醸造に協力いただけることになりました。

岩村醸造の外観。
Journey 07
07
The visit
お礼と蔵の見学のために、岩村を訪ねました。

蔵の内部。

仕込みに用いられる水。
蔵は、いまも城下町の通りに面して残っています。蔵の内部、仕込みの水、床に残る古いトロッコのレール、そして町。

蔵の人々。
復刻の話が、ここで場所を持ちました。
Journey 08
08
The licence
委託醸造先が決まったことで、酒販免許の申請も進めることができました。
05で壁になっていた、蔵の協力と書類。そのひとつが、ここで越えられました。
Next — 章七
寿老は、どんな酒だったのか寿老を造ってもらえる場所が見つかり、酒販免許の申請も進めることができました。
けれど、ここでひとつの疑問が残りました。
日本酒のおもしろさは、同じ米と水から造られる酒であっても、米、水、麹、酵母、そして発酵のさせ方や蔵の環境によって、その味わいが大きく変わることです。
寿老という名前だけを復活させるのではなく、かつて造られていた寿老が、どのような酒だったのかを知りたい。
ここから、酒そのものをたどる調査が始まりました。
Inquiry 01
The sake
ラベルと記録だけでは、当時の酒には届きませんでした。
Research notes
当時の数値が確認できた項目と、まだ確認できていない項目があります。
古い掲載誌の記述に、アルプス酵母と但馬杜氏の名がありました。ここで問いが変わりました。
Inquiry 02
The toji
但馬杜氏の組織に問い合わせ、記録をたどると、ひとつの名前に行き着きました。
The toji who brewed Juro
森口隆夫
寿老の醸造を担った杜氏。
旧蔵の廃業後は別の蔵に移り、高い評価を受けた酒の醸造に携わっていました。
連絡が取れ、実際に寿老を造った人に話を聞けるようになりました。
今回の復刻では、残されたラベルや記録だけでなく、実際に寿老の醸造に携わった人の記憶もたどりながら、当時の酒造りを調べています。
酒を追いかけていたら、人にたどり着いた。
Inquiry 03
Research continues
調査継続中
森口さんへ辿り着いても、調査は終わりませんでした。
Next — 章八
残された記録を見る最初に見えていたのは、1860年と1993年の二つだけでした。復刻を進めながら調べていくうちに、そのあいだの記録が少しずつ現れてきました。
万延元年
1860
発見時に既知 — Known at discovery
Founded
江戸時代から農業を営み、醤油業をしていたと資料に記されています。万延元年、酒造業を開始。
Source: 日本の名酒事典 ほか地酒誌
明治36年
1903
調査で判明 — Found through research
National Industrial Exhibition
内国勧業博覧会に、鍬田の酒が出品されていたことが分かりました。

出品目録の表紙。

目録に残る、鍬田の清酒の記載。
明治38年
1905
調査で判明 — Found through research
Trademark registered
「寿老」の名が、登録商標として残されていました。
Source: 日本登録商標大全

寿老の名称が商標資料に残されていることを紹介。
大正9年
1920
調査で判明 — Found through research
Company established
鍬田株式会社が設立。資本金200,000円。
Source: 鍬田株式会社 設立記録

会社登記の記録。
平成5年度
1993
発見時に既知 — Known at discovery
National Sake Appraisal — Gold
金賞を受賞した「寿老 大吟醸」。醸造を担ったのは、但馬杜氏 森口隆夫氏。
Source: 寿老 大吟醸ラベル

金賞を受賞した「寿老 大吟醸」のラベル。
Surviving materials
i
商標・ラベル
The name

商標資料に残る「寿」の拡大。

緑地のラベル。

鶴と寿老人が描かれたラベル。

大吟醸 300ml のラベル。
ii
雑誌掲載
In print — third-party records
1996
月刊たる

当時の地酒紹介誌に掲載された寿老大吟醸
1989
関西の酒蔵

姫路酒造関連資料に掲載された寿老の記録
1997
関西こだわりの地酒

当時の地酒紹介誌に掲載された寿老大吟醸
iii
研修旅行の写真
The people

研修旅行の記録。

研修旅行の記録。

研修旅行の記録。

研修旅行の記録。

研修旅行の記録。
iv
その他の記録
Other records

工場一覧に記載された鍬田酒造場。

工業調査に記載された鍬田の工場。

博覧会目録に残る、鍬田の醤油の記載。
Next — Seven lucky gods
七福神へ
緑地のラベル。
Cultural notes
「寿老」の名が寿老人に由来するかどうかを示す資料は、現在のところ確認できていません。ここでは、名に重なる文化的な背景を記録として並べています。
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